下條によれば、宮崎さんが調律・調整を重ね、育て上げたスタインウェイのピアノは、初めて弾いた時に衝撃をうけ『思わず……泣きそうになる。』そんなピアノだったとのこと。
ピアノからインスピレーションを受けすぎて、弾いているだけで心が震えるその秘密は何か、ピアノはピアニスト以外の要素でどこまで可能性が広がるのかを探っていきます。
例えるなら、F1レーサーとレーシングカーを整備するエンジニアの関係に似ている。
同じピアノでも調律師さんによって音色が全然ちがうなぁと思っていたのですが、宮崎さんはそもそもピアニストと調律師の関係ってどのように考えていますか?
例えるなら、F1レーサーとカーエンジニア、あるいはシェフと食材を提供する人たちの関係みたいなものだと思います。調律師は、ピアニストがピアノと一体になって演奏できるようにピアノを調整する人だと言えます。
やはり調律師さんによってピアノの音って本当に変わりますよね。ピアニストだけでピアノ音楽は成り立たないって思います。
でも、実は世の中にそのことが、そんなに伝わっていないなと私も思うことがあります。
宮崎さんはどのように考えますか?
ピアノの音色は調律師がつくっている部分が大きいのですが、調律師が取り上げられる機会は確かに少ないですよね。
たとえば、シェフが取り上げられても、食材の提供者にスポットライトが当たることが少ないように、裏方がどれだけいるか、どれだけ裏方の力に支えられているかということは見逃しがちだと思います。
でも実際は、きちんと整備されていない車では良いレースは出来ないし、質の悪い食材では美味しい料理はつくれない訳です。
どんなに素晴らしいピアニストでも、ピアノがきちんと調律・調整されていなければ素晴らしい演奏は出来ません。
ピアニストの裏にどれだけの達人がいるか、ということですね。
これはあらゆる職業で言えることだと思いますが、重要な仕事の割に日の目を見ない裏方の存在がどれだけいるかと思うことがあります。
確かに、どれだけ裏方の方々に支えられているか最近身にしみて感じます。
いろいろなコンサート活動をするようになって、企画から私自身も携わることも多くなり、どれだけ裏方作業が大変か、そして重要かを知りました。
ピアノの音色をお客様にお届けするまでに、どれだけの作業をしないといけないかを学ぶ日々です。
また、宮崎さんが調律をされたピアノを弾いた時に本当に衝撃を受けて!!ピアノってやっぱり本当に調律師さんによって全然音色が違いますよね。宮崎さんのピアノからインスピレーションを受けすぎて、弾いているだけで心が震えました。それでもっと綺麗な音色を!って探求している自分がいます。
さっきもお伝えしたように
F1レーサー=ピアニスト、カーエンジニア=調律師。
料理人=ピアニスト、食材提供者=調律師という関係がそろって、はじめて成り立つと言えます。
ピアニストは、ピアノを弾くことしかできない、ピアノがピアニストの身体の一部になるように調整するのが調律師の役割だと考えています。
どんなにシェフの腕が優れていても良い食材でないと極上の料理はできませんからね。
ピアニストは、ピアノを演奏するだけでも莫大な時間とエネルギーが必要です。だからこそピアノを仕上げる調律師の役割は大きいと考えています。
ヴァイオリニストなど弦楽器奏者にはじまり、管楽器奏者も自分で楽器の調律をしますが、ピアニスト自身も本来は自分で調律をするべきだと思いますか?
実際には、それは大変だと思います。ピアノという楽器は、そのつくり自体がとても複雑で、機械としての部分も多く、部品の調整次第でタッチや音色も変わるので、もし本番前にピアニスト自身が調律や調整までやっていたら、それだけで疲れてしまうんじゃないでしょうか。
でも、自分で調律できないからこそ、ピアニスト自身もピアノの構造や、調律・調整についてもっと知っても良いのではないでしょうか。
そうなのですね!今回私自身宮崎さんと出会って、ピアノの調律についても学びたくなりました。よりピアノの音色が探求できそうです。ちなみに今まででピアニストで調律までしてしまったピアニストっているのでしょうか?
ミケランジェリは、自分でも調律できたという話しを聞いたことがありますが、やはり本番前のピアノの調整は調律師に任せていたようです。でも、とても完璧主義で、調律、音色、鍵盤アクションの調整については細かく指示していたようです。
そもそも調律師ってどんな依頼を受けるのですか?
下條さんはどういうイメージをしていますか?
ピアノの音程や音色を調整していただいたり、タッチの加減も調整していただいたりするイメージです。
調律師が現場で行なう作業は主に3つあります。
① 調律 = 音程の調整
② 整調 = タッチの調整
③ 整音 = 音色の調整
一般的には、調律のことしか知らない方が多く、②整調 ③整音についての知識や理解がまだまだ浅いのが現状だと思います。
ピアニストによっては②③に関する要望も出されます。
私は、毎日のようにコンサートやレコーディングの調律をしていますが、コンサート前にピアニストが気持ち良く演奏出来るように、調律・整調・整音を総合的に調整しながらピアノを調えています。
そこまでしていただいていたのですね!コンサートでも調律師さんとここまで深くお話することはなかったので、ここまで考えてくださっているとは驚きました。本当に感謝の気持ちしか出てきません。
宮崎さんのような考えの持った調律師さんに出逢えた私は幸せ者です。
本当に音が違いますし、私の要求にも本当に応えてくださって、ピアノを弾いていて、嬉しくなってより良いものが生み出せる気がします。宮崎さんのその信念が秘密だったのですね。
レコーディングの場合の調律って何か変えていますか?
基本的には、コンサートもレコーディングも調律は同じですが、コンサートホールとレコーディングスタジオを比較すると、残響の長さなどピアノが置かれている環境に違いがあります。
それによって音の響き方も変わりますのでそれを考慮して調整します。
そういえば、ピアニストでやりにくい相手っていますか?
今はほとんどないですね。
音に対する感覚は人それぞれなので、相手の感じていること、相手が求めている音を理解するよう努力し、コミュニケーションに努めれば、必ずお互いの合意点を見い出せると思っています。
win-winの関係が築けるように努力しています。
それ分かります。コンサートも1対大勢のお客様相手なので、いろんな方がいらっしゃいますが、それが面白いし、それに私もコミュニケーションだなと思っています。
相手の求める音をつくる努力をする。そうすれば、やりにくい相手でなく、私を必要としてくれる大切なお客様になると考えています。それによって自分自身も成長できますから。
素敵な考えです。そうすれば絶対的な『信頼関係』も生まれますよね。やはり調律師さんと、ピアニストの信頼関係があついほど良い音色は生まれると今回分かりました。
宮崎さんはなぜ調律師の道を目指したのですか?
音楽が好きで、特にピアノの音が好きで、好きなことを仕事にしたかったからですね。
ピアノで、たくさんのアーティストと音楽を創造する仕事をしたかったから、調律師、しかもコンサートチューナーになろうと思いました。
コンサートやレコーディングの現場が好きで、ピアノの音を通して人を幸せな気持ちにしたいと思ったから、音楽を最大限に表現するアーティストたちと一緒に音楽を創造する仕事がしたいと思いました。
人を感動させる仕事はやり甲斐がありますし、美しく調律されたピアノの音は人を幸せにする力があると思っています。
では、下條さんはなぜピアニストの道を目指したのですか?
私も音楽、そしてピアノの音が好きで、また、特に小さい頃から舞台が好きということもあり、小さい頃からステージから音楽とエネルギーを届けることができる職業「ピアニスト」という夢を書き続けたのがきっかけです。
昨年のソロデビューに行くまでに幾度となく乗り越えなくてはならない壁にぶち当たることもありましたが、小さい頃から思い描いた「夢」が諦めきれず、突き進み、今があるような気がします!
そうなのですね!下條さんはその上で、お客様にどのような音色を届けていきたいですか?
来てくださる方の「夢の原動力」になるような音色を出していきたいなと思っています。
こんな音色を聴いたことがなかったとか、こんなステージを観たことがなかった、のように予想をはるかに超えたものに出会えた時に「感動」が生まれるのかなと思っているので、常に研鑽し続けて、進化した音色をお届けしたいなと思っています。
来てくださるお客様自身が、コンサート会場を出るときに、なにか少しでも自分がしたいと思っている『夢』に向かって突き進むエネルギーになれるものでいたいと、いようと思っています!
ありがとうございます。いいですね!
私は下條さんの音色に対する探究心やメッセージには本当に共感しています。
ありがとうございます。私も宮崎さんの育て上げた名器スタインウェイのピアノを弾かせていただけることが本当に楽しみです。初めて弾いたときに、インスピレーションを受けすぎて、弾いていて泣きそうになる経験をし、そんな素敵なピアノの音色を最大限活かせる弾き方でいようと、私自身も新たな音色の扉を開いていただいたような気がしています!
色んな出逢いによって自分の腕が磨かれるのが面白いし、宮崎さんとの出逢いにも感謝しています。
下條恵理子が奏でる宮崎剛史が仕上げた名器NYスタインウェイの音色とともに、特別な時間を過ごす、20名限定のシークレットパーティーの開催されました。
秋の夕暮れ時、地上30Fからの美しい夕焼けや夜景を眼下に、食事やお酒を楽しみながら、下條恵理子が奏でる宮崎剛史の育てた名器NYスタインウェイの響きを至近距離で堪能していただく特別贅沢なピアノパーティーが開催されました。
「思わず涙が出てしまった。」
「ピアノの生音の響きがこんなにも良い音だなんて思っていなかった。」
「こころが洗われました。ピアノの音色がこんなにも深くて多彩だなんて知りませんでした。」
などと
なかなか普段は聴けないピアノの生音をゆったり聴く体験の感想もいただきました。
今後もシークレットに定期的に開催されます。ご興味のある方は是非こちらにメッセージくださいませ。
*実は次回は12/2にシークレットクリスマスパーティーが開催されます。
限定のシークレットパーティーですが、せっかくの対談なので、この記事を見てくださったご縁のある方に。この素敵な機会にぜひお越しくださいませ。
お問い合わせはこちら
主に、日々に彩りを添える「ステキな音楽の魅力や楽しさ」をメールマガジンでお届けしています。今後のコンサート案内や、本サイトの更新情報などもお知らせいたします。
メールレターご登録はこちら